相続した土地について、「更地のままでは固定資産税だけがかかる」「アパートを建てれば相続対策と家賃収入になる」と提案を受けることがあります。
土地活用として賃貸住宅が適している場合はあります。しかし、建物を建てれば、長期の借入、空室、家賃下落、設備交換、大規模修繕、管理の負担も引き受けることになります。建築後に方針を変えるのは容易ではありません。
大切なのは、建築会社の収支計画だけで決めず、「土地を現在の市場価格で保有している」という前提から、建てない選択肢も含めて比較することです。

1.土地の現在価値を投資額に含める
親から相続した土地は購入代金を支払っていないため、建築費だけを投資額として利回りを計算しがちです。しかし、その土地には、現状で売却できる市場価値があります。
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、実際の取引価格、地価公示、都市計画、防災、周辺施設等を地図上で確認できます。公表情報に加え、接道、形状、高低差、権利関係、周辺環境等を反映して個別に査定します。
例えば、土地の市場価格が6,000万円、建築その他の初期費用が9,000万円なら、経済的には合計1億5,000万円の資産を投入する計画として考えます。「土地代がゼロ」という前提では、他の選択肢と公平に比較できません。
2.賃貸需要を小さな地域単位で確認する
人口が多い市でも、駅、町丁目、間取り、築年数、入居者層によって賃貸需要は異なります。総務省統計局の住宅・土地統計調査では、住宅数、空き家、借家などの基礎データが公表されています。
ただし、市全体の統計だけで個別敷地の需要は判断できません。計画地周辺について、次の事項を確認します。
- 同じ間取り・築年帯の募集戸数と成約状況
- 募集賃料、共益費、礼金、フリーレント
- 駅距離、通勤・通学先、買物、医療等の利便性
- 単身、ファミリー、高齢者など想定入居者の厚み
- 今後供給される賃貸住宅と競合物件の設備
- 入居までの想定空室期間
満室想定賃料ではなく、空室、賃料調整、募集費用を織り込んだ実効収入で計画します。
3.建築できる規模と追加費用を確認する
同じ面積の土地でも、用途地域、建ぺい率、容積率、接道、道路幅員、高さ、日影、条例などにより建築できる規模は変わります。擁壁、地盤改良、上下水道の引込み、解体、境界確認等が必要になれば、初期費用も増えます。
概算プランだけで収益計算を確定せず、行政窓口、建築士、土地家屋調査士等と法令・敷地条件を確認し、建築可能な面積と追加工事を整理します。船橋市、習志野市、千葉市でも、立地する区域や敷地条件ごとに確認が必要です。
4.災害リスクを収益と出口価格へ反映する
国土交通省のハザードマップポータルサイトでは、洪水、内水、高潮、津波、土砂災害等のリスク情報を重ねて確認できます。自治体の最新ハザードマップや現地の高低差もあわせて確認します。
災害リスクは、安全対策だけでなく、造成・基礎工事、保険料、設備配置、入居募集、将来の売却可能性へ影響することがあります。ハザード区域に該当するだけで計画を断念するのではなく、必要な対策費と残るリスクを数値に反映します。
5.表面利回りではなく営業純利益を計算する
表面利回りは、一般に年間満室想定賃料を投資額で割って計算します。比較の入口にはなりますが、空室と運営費を反映していません。
収益分析では、まず次のように営業純利益を計算します。
実効総収入-運営費=営業純利益(NOI)
実効総収入では空室、滞納、賃料値下がり、フリーレントを差し引きます。運営費には、管理委託料、清掃、共用部光熱費、固定資産税、保険、点検、日常修繕等を見込みます。
税務上も、不動産所得は総収入金額から必要経費を差し引いて計算し、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費等が主な必要経費とされています。
ただし、税務上の所得と現金収支は一致しません。減価償却費は現金支出を伴わず、借入金の元金返済は現金が出ても必要経費にはなりません。営業純利益、税務上の所得、返済後の手残りを分けて作成します。
6.大規模修繕と設備交換を年単位で積み立てる
新築直後は修繕費が少なく、収支が良く見えます。しかし、外壁、屋根・防水、給排水、共用設備、エアコン、給湯器などは将来更新が必要です。
少なくとも10~20年程度の修繕計画を作り、将来支出を年平均額へ置き換えて収益を見ることが重要です。税務上は、通常の維持管理や修理と、使用可能期間を延長し価値を高める資本的支出とで取扱いが異なります。具体的な区分は工事内容により判断されるため、税理士へ確認してください。
管理会社や建築会社が示す修繕計画についても、対象工事、単価上昇、設備の耐用、工事中の空室影響まで確認します。
7.借入返済と出口価格まで比較する
借入を利用する場合は、金利、固定・変動、返済期間、元利返済額、金利上昇時の手残りを確認します。
収益性を見る代表的な指標には、次のようなものがあります。
- NOI利回り:営業純利益を土地の市場価値を含む投資額で割る
- 借入返済余裕率:営業純利益が年間返済額をどれだけ上回るかを見る
- キャッシュフロー:返済、税金、将来修繕の積立後に残る現金を見る
- 内部収益率:保有中の収支と将来売却代金を時間の経過も含めて比較する
計算結果は、賃料、空室率、金利、修繕費、売却価格を変えた複数のシナリオで確認します。最も楽観的な条件だけで返済できる計画は慎重に見直す必要があります。
また、10年後、20年後に「誰が経営を続けるのか」「売る場合にいくら残るのか」も検討します。建物の築年数、稼働状況、修繕履歴、借入残高、土地価格を反映した出口価格から、売却費用と税負担を差し引いて比較します。
建築以外の選択肢も同じ条件で比較する
土地活用はアパート建築だけではありません。敷地と家族の状況に応じて、次の選択肢を比較します。
現状で保有する
将来自宅や事業で使う可能性がある場合は、維持費と管理責任を確認して保有します。
小規模に活用する
駐車場、資材置場、定期借地など、投資額を抑えた活用が可能な場合があります。法規制、需要、契約終了時の返還条件を確認します。
賃貸住宅等を建築する
需要があり、保守的な条件でも返済と修繕資金を確保でき、家族が長期運営を引き継げる場合に検討します。
資産を組み換える
土地を売却して借入をせずに流動性を確保する、管理しやすい資産へ組み換えるなど、資産全体の収益性と分割しやすさから検討します。
売却ありきにも、建築ありきにもせず、それぞれの税引後手取り、リスク、管理時間、将来の遺産分割まで同じ表で比較することが大切です。
土地活用を決める前にそろえたい資料
- 登記事項証明書、公図、測量図、境界資料
- 固定資産税課税明細書、相続税申告書
- 現在の市場価格に関する査定資料
- 用途地域、接道、建築規制、上下水道等の調査資料
- ハザードマップ、地盤・高低差に関する資料
- 周辺の募集・成約賃料、空室期間、競合計画
- 建築費、設計費、融資費用、追加工事を含む総事業費
- 管理費、税金、保険、修繕費を含む長期収支表
- 借入の金利、期間、返済予定表
- 保有・活用・組み換え・売却の比較表
まとめ|建物ではなく土地を含む事業全体で判断する
相続した土地へのアパート建築は、安定した収益と土地の有効活用につながる可能性があります。一方、建築費だけを分母にした表面利回りや満室想定だけでは、投資判断に必要な情報が足りません。
土地の現在価値、実際の賃貸需要、空室、運営費、借入返済、大規模修繕、災害リスク、将来売却価格を一体で分析し、条件が悪化した場合にも継続できるかを確認しましょう。
船橋・津田沼相続相談センターでは、代表の高原が、特定行政書士として相続人や財産関係、遺産分割に必要な事項を整理し、必要に応じて税理士・司法書士等の専門家と連携して対応します。
また、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資顧問)としての専門知識と、不動産会社経営および相続・不動産コンサルティングの実務経験を生かして対応します。単に現在の市場価格を査定するだけでなく、CPM・CCIMの知識と分析手法を用いて、賃貸需要、収益性、投資価値、キャッシュフロー、借入返済、修繕・管理負担、出口価格などを分析し、保有、小規模活用、建築、資産の組み換え、売却の各選択肢を総合的に比較します。
船橋市、習志野市、千葉市周辺で、相続した土地へアパートを建てるべきかお悩みの方は、契約や融資を決める前に、土地を含む事業全体の収益分析から始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は一般的な収益分析と検討方法を説明するものです。相続税・所得税・譲渡所得税等は税理士・税務署、不動産登記は司法書士・法務局、建築規制は建築士・自治体、境界・表示登記は土地家屋調査士、契約や紛争等の法律判断は弁護士へご確認ください。
参考資料
- 「不動産情報ライブラリ」国土交通省、https://www.reinfolib.mlit.go.jp/ (確認日:2026年8月29日)
- 「令和5年住宅・土地統計調査」総務省統計局、https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/tyousake.html (確認日:2026年8月29日)
- 「ハザードマップポータルサイト」国土交通省、https://www.mlit.go.jp/report/press/mizukokudo06_hh_000319.html (確認日:2026年8月29日)
- 「No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1370.htm (確認日:2026年8月29日)
- 「No.1379 修繕費とならないものの判定」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1379.htm (確認日:2026年8月29日)
