夫が亡くなり、妻と18歳未満の子が相続人になるケースでは、母親が子の親権者だからといって、遺産分割協議書へ母親一人で双方の立場から署名できるとは限りません。
遺産分割では、親の取得分が増えれば子の取得分が減る関係にあるため、親と子の利益が相反します。この場合、子の利益を守るため、家庭裁判所が選任する特別代理人に子を代理してもらう必要があります。
特に遺産の多くが自宅や賃貸物件などの不動産であると、法定相続分の数字だけでは分けられません。市場価格、相続税評価、住宅ローン、賃貸収支、修繕費、住み続ける人などを整理し、子にとって不利益にならない分割案を準備することが大切です。
親と未成年の子の遺産分割は利益相反になる
民法826条は、親権者と子の利益が相反する行為について、親権者が家庭裁判所へ特別代理人の選任を請求しなければならないと定めています。
典型例は、父が亡くなり、母と未成年の子が共同相続人となる遺産分割です。母は自分自身の相続人としての立場と、子を代理する親権者としての立場を同時に務めることができません。
利益相反に当たるかどうかは、親が実際に子へ損をさせる意思を持っているかではなく、行為の外形から判断されます。そのため、家族全員が合意している場合や、分割案が法定相続分どおりの場合でも、親と子が共同相続人として遺産分割をする以上、原則として特別代理人の手続が必要です。
一方、親が相続人ではなく、子だけが相続人となる場合などは、同じ結論にならないことがあります。相続関係や遺言の内容によって判断が変わるため、戸籍と遺言書を確認して個別に検討します。
未成年の子が複数いる場合

親と未成年の子2人が共同相続人となる場合、親と各子の間だけでなく、子同士の取得内容も競合します。そのため、同じ親権に服する複数の子の間で利益が相反する遺産分割では、各子について別々の特別代理人が必要となるのが原則です。
例えば、母と中学生の長男、小学生の長女が相続人なら、長男と長女それぞれについて候補者と分割案を準備することになります。具体的な申立ての組み立ては、管轄の家庭裁判所へ事前に確認すると安全です。
特別代理人選任の申立て方法
裁判所が案内する特別代理人選任手続では、親権者または利害関係人が、子の住所地を管轄する家庭裁判所へ申し立てます。
申立費用
申立手数料は、未成年の子1人につき収入印紙800円です。これとは別に、裁判所からの連絡に使用する郵便切手が必要で、金額と内訳は裁判所によって異なります。
主な必要書類
裁判所の案内では、一般に次の書類が挙げられています。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者または未成年後見人の戸籍謄本
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案など)
事案に応じて追加資料を求められることがあります。戸籍類について、同じ書類を既に裁判所へ提出している場合の扱いも含め、申立先へ確認してください。
候補者を決めるときの注意
申立書には特別代理人の候補者を記載できます。候補者に特別な資格は必須ではありませんが、遺産分割について子と利益が対立しない人である必要があります。親族を候補にできる場合もありますが、最終的に選任するのは家庭裁判所です。
候補者が適切でない場合や、分割内容についてさらに確認が必要な場合には、裁判所から照会や資料の追加提出を求められることがあります。売却や納税の期限が迫ってからではなく、相続人と財産が判明した段階で準備を始めましょう。
遺産分割協議書案では不動産の価値と負担を示す
特別代理人の申立てでは、予定する遺産分割協議書案が重要な資料になります。預貯金だけなら金額で比較しやすい一方、不動産は「評価額」と「実際の負担」が一致しません。
分割案を考える前に、少なくとも次の事項を整理します。
- 登記事項証明書、固定資産税課税明細、評価証明書
- 不動産の市場価格と相続税評価額
- 住宅ローンやアパートローンなどの残高
- 賃貸借契約、家賃収入、空室、管理費、修繕費
- 居住者と今後の利用希望
- 売却した場合の費用・税金を考慮した手取り見込み
- 預貯金、保険金、有価証券など他の遺産
「自宅の固定資産税評価額が預金額と近い」という理由だけでは、実質的に公平とは限りません。市場価格、処分可能性、維持費、借入れ、将来の修繕負担も併せて説明できるようにします。
未成年者がいる場合の不動産の分け方
1.親が不動産を単独取得し、子が預貯金等を取得する
親が自宅へ住み続ける場合に検討しやすい方法です。親が不動産を、子が同程度の価値の預貯金や有価証券を取得できれば、共有を避けながら子の利益を確保できます。
ただし、不動産の市場価格と預貯金の額が釣り合っているか、親に住宅ローンや維持費を負担できるかを確認します。子が取得する金銭は子の財産として分けて管理する必要があります。
2.親が不動産を取得し、子へ代償金を支払う
他の遺産だけでは調整できない場合、親が不動産を単独取得し、子へ代償金を支払う方法があります。
代償金の額、支払時期、原資、分割払いの確実性を明確にします。親の資力が不足しているのに将来払いとする案は、子の利益を十分に守れない可能性があります。住宅ローンの利用可否や税務上の扱いも事前確認が必要です。
3.親と子の共有にする
持分で分ければ計算上は公平に見えますが、子の持分を含む不動産の売却、担保設定、大規模な変更などでは、将来も子の利益を守る手続が必要になることがあります。
進学、転居、修繕、売却など家族の事情が変わることを考え、共有期間、費用負担、使用方法、共有を解消する条件まで検討します。「決めやすいから一旦共有」とする前に、単独取得や換価分割と比較しましょう。
4.不動産を売却して換価分割する
不動産を売却し、費用等を精算した残額を分ける方法です。金銭で分けられるため比較しやすい一方、売却時期、市場価格、居住者の退去、測量・残置物・修繕、譲渡所得税を確認する必要があります。
特別代理人の権限や分割協議書案と実際の売却手順が整合するよう、売買契約を進める前に司法書士、弁護士、税理士、不動産会社等へ確認します。
相続税の10か月期限と未成年者控除
遺産分割や特別代理人の手続中でも、税務上の期限は別に進みます。相続税の申告と納付は、原則として被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。申告が必要か、未分割で期限を迎える場合にどのように申告するかは、早めに税理士または税務署へ確認してください。
相続税が生じる場合、一定の要件を満たす18歳未満の法定相続人には、満18歳になるまでの年数1年につき10万円を相続税額から控除する未成年者控除があります。年数に1年未満の端数があるときは切り上げます。過去の相続で控除を受けている場合などは計算が異なることがあるため、個別に確認が必要です。
相続登記の3年期限も並行して管理する
相続登記は2024年4月1日から義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内の申請が原則です。遺産分割によって不動産を取得した場合にも、成立日から3年以内にその内容を反映した登記が必要になります。
正当な理由なく義務に違反すると、10万円以下の過料の対象となる可能性があります。特別代理人の選任に時間を要する場合でも、戸籍収集、財産調査、相続税申告、登記の各工程を一覧にし、期限を別々に管理しましょう。
手続きを始める前のチェックリスト
- 出生から死亡までの戸籍等で相続人を確定する
- 遺言書の有無と内容を確認する
- 未成年者と親権者の利益相反を確認する
- 子が複数いる場合の申立て人数を確認する
- 預貯金、保険、有価証券、債務を一覧にする
- 不動産の登記、利用、借入れ、収支を確認する
- 市場価格と相続税評価額を分けて確認する
- 単独取得、代償分割、共有、換価分割を比較する
- 遺産分割協議書案と候補者を準備する
- 相続税10か月、相続登記3年等の期限を管理する
まとめ|申立て前に「子の利益を説明できる分割案」を作る
親と未成年の子が共同相続人となる遺産分割では、親子の関係が良好でも、原則として特別代理人の選任が必要です。子が複数いる場合は、各子について別の代理人が必要になることがあります。
家庭裁判所へ申し立てる前に、相続人、財産、債務、不動産の市場価格と負担を整理し、なぜその分割が子の利益にかなうのか説明できる協議書案を準備することが重要です。
船橋・津田沼相続相談センターでは、代表の高原が、特定行政書士として相続人や財産関係、遺産分割に必要な事項を整理し、必要に応じて税理士・司法書士等の専門家と連携して対応します。
また、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資顧問)としての専門知識と、不動産会社経営および相続・不動産コンサルティングの実務経験を生かして対応します。単に現在の市場価格を査定するだけでなく、CPM・CCIMの知識と分析手法を用いて、収益性、投資価値、キャッシュフロー、修繕・管理負担、将来性などを分析し、親による単独取得、代償分割、共有、換価分割、保有、改善、資産の組み換え、売却の各選択肢を総合的に比較します。
船橋市、習志野市、千葉市周辺で、未成年の相続人がいる遺産分割や相続不動産の扱いにお悩みの方は、家庭裁判所への申立て前に、相続関係と財産全体、分割案を整理してみてはいかがでしょうか。
※本記事は一般的な制度と検討方法を説明するものです。家庭裁判所への申立書作成や登記は司法書士、紛争・法的判断や代理は弁護士、相続税の計算・申告は税理士または税務署へご確認ください。行政書士は、紛争性のない範囲で相続人・財産関係の整理や遺産分割協議書等の作成を支援します。
参考資料
- 「民法(明治二十九年法律第八十九号)第826条」e-Gov法令検索(デジタル庁)、https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-At_826 (確認日:2026年9月15日)
- 「特別代理人選任(親権者とその子との利益相反の場合)」裁判所、https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_06_11/index.html (確認日:2026年9月15日)
- 「No.4205 相続税の申告と納税」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm (確認日:2026年9月15日)
- 「No.4164 未成年者の税額控除」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4164.htm (確認日:2026年9月15日)
- 「相続登記の申請義務化に関するQ&A」法務省、https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html (確認日:2026年9月15日)
