親の実家を相続しても、すぐに住む、貸す、売ると決められるとは限りません。
遺品の整理に時間が必要な場合、将来は子どもが住む可能性がある場合、家族の気持ちがまとまらない場合など、「当面は空き家のまま保有する」という判断にも合理的な理由があります。
ただし、空き家は使っていなくても、建物の劣化、庭木や雑草、郵便物、防犯、火災、近隣への影響、固定資産税などへの対応が続きます。売却に関する税制には期限があるため、数年間そのままにしてから考えると、選択肢が狭まることもあります。
この記事では、相続した実家をいったん空き家として保有するときの管理方法と、固定資産税、相続登記、将来の活用・売却を判断するための確認点を整理します。
空き家の所有者には適切な管理が求められる

空家等対策の推進に関する特別措置法では、空き家の所有者または管理者に、周辺の生活環境へ悪影響を及ぼさないよう適切な管理に努めることを求めています。
国土交通省の「空家法とは」でも、放置された空き家には、倒壊の危険だけでなく、衛生、防犯、景観などの問題が生じることが説明されています。
相続人が遠方に住んでいても、空き家の状態は自然には維持されません。少なくとも次のような項目を定期的に確認します。
- 屋根、外壁、雨どい、塀に破損や傾きがないか
- 雨漏り、漏水、カビ、害虫の発生がないか
- 窓や玄関の施錠、防犯設備に問題がないか
- 雑草、庭木、落ち葉が道路や隣地へ越境していないか
- 郵便物やチラシがたまり、不在が明らかになっていないか
- 通風、換気、通水が必要な状態ではないか
- 台風、豪雨、地震の後に異常がないか
- 火災保険の補償内容が空き家の利用状況に合っているか
確認のたびに日付と状況を記録し、写真を残しておくと、相続人間で管理状況を共有しやすくなります。自分たちで通えない場合は、管理を委託する費用も保有コストとして見込みます。
「管理不全空家」と「特定空家」は段階が異なる
空き家に関する行政上の対応では、「管理不全空家」と「特定空家」を区別して考える必要があります。
2023年の空家法改正により、適切な管理が行われず、このまま放置すれば特定空家になるおそれがある空き家が「管理不全空家」として、市区町村による指導・勧告の対象になりました。
一方、特定空家は、倒壊等の著しい保安上の危険、衛生上の有害、著しい景観の阻害、周辺の生活環境を保全するために放置が不適切である状態などに該当する空き家です。
管理不全空家や特定空家に対する措置の考え方と判断基準は国土交通省がガイドラインとして公表していますが、個別の認定や措置は建物の状態等を踏まえて市区町村が判断します。
古い建物であることや、一定期間使っていないことだけで、直ちに管理不全空家や特定空家になるわけではありません。しかし、屋根や外壁が傷んでいる、樹木が道路へ大きくはみ出している、窓が割れたままであるなどの状態を放置すれば、行政の指導対象となる可能性があります。
勧告を受けると住宅用地特例の対象外になることがある
住宅の敷地には、通常、固定資産税の課税標準を軽減する住宅用地特例があります。200平方メートル以下の小規模住宅用地では固定資産税の課税標準が6分の1、200平方メートルを超える一定部分では3分の1となる仕組みです。
しかし、市区町村長から勧告を受けた管理不全空家または特定空家の敷地は、住宅用地特例の対象から外れることがあります。
注意したいのは、「空き家になったら直ちに固定資産税が6倍になる」という単純な仕組みではないことです。管理不全空家等に該当するか、指導後に勧告を受けたか、土地や家屋の評価、都市計画税、負担調整措置などにより実際の税額は異なります。
市区町村から文書や連絡が届いた場合は放置せず、指摘箇所、改善期限、必要な工事や管理方法を確認しましょう。固定資産税の具体的な計算は、物件所在地の市区町村の資産税担当窓口へ確認することが必要です。
相続登記は空き家でも必要
実家を利用していなくても、相続登記の義務はなくなりません。
相続により不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが原則で、正当な理由なく義務に違反した場合は10万円以下の過料の対象となる可能性があります。
遺産分割協議がすぐにまとまらない場合には、相続人申告登記を利用できることがあります。ただし、これは最終的な取得者や持分を確定する登記ではありません。遺産分割が成立した後は、その内容に応じた登記が別途必要です。
名義を亡くなった方のままにすると、売却や賃貸、担保設定、大規模修繕の契約を進めにくくなります。さらに相続人の一人が亡くなると関係者が増え、戸籍収集や協議が複雑になる可能性があります。
誰が取得するか、共有にするか、売却代金を分けるかという出口の検討と、登記期限への対応を並行して進めましょう。登記申請の代理や個別の登記判断は、司法書士・法務局へ確認が必要です。
空き家の保有コストを年間で見える化する
「売らなければ損をしない」と考えがちですが、使わない実家にも毎年の支出と将来の修繕負担があります。
毎年または定期的に生じる費用
- 固定資産税、都市計画税
- 火災保険、地震保険
- 電気、水道等の基本料金
- 草刈り、剪定、清掃、見回り
- 雨漏り、給排水、外壁、屋根等の修繕
- 管理委託費、交通費
- 家財整理、残置物処分費
空き家を将来利用する予定がある場合は、「今後何年間保有するのか」「利用開始までにどの程度の改修が必要か」も数字にします。
例えば、5年間保有するなら、5年分の固定費と想定修繕費を合計し、将来の利用価値や売却価格と比較します。現在の査定価格だけでなく、建物の劣化、地域の取引動向、接道や境界、再建築の可否、解体費、家財処分費も確認することが大切です。
売却を選択肢に残すなら3,000万円特別控除の期限を確認
相続した空き家を売却するとき、一定の要件を満たせば譲渡所得から控除できる特例があります。
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除は、現行の案内では2027年12月31日までの譲渡が対象です。2024年1月1日以後の譲渡で、その家屋と敷地等を取得した相続人が3人以上の場合、各人の控除限度額は2,000万円です。
この特例は、相続した空き家なら自動的に使えるものではありません。主な確認事項には次のものがあります。
- 1981年5月31日以前に建築された家屋であること
- 区分所有建物ではないこと
- 相続開始直前に、原則として被相続人以外の居住者がいなかったこと
- 相続後、事業、貸付け、居住の用に供されていないこと
- 売却代金が1億円以下であること
- 相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること
- 耐震基準への適合または取壊しに関する要件を満たすこと
- 確定申告で必要な確認書や証明書を提出すること
制度改正により、一定の場合には売却後に買主が耐震改修または取壊しを行う形も対象となり得ますが、実施期限や証明書類があります。契約条件へ反映する必要があるため、売却前に税理士・税務署、不動産会社、必要に応じて建築士等へ確認してください。
亡くなった方が老人ホーム等に入所していた場合
相続開始直前に亡くなった方が老人ホーム等に入所していた場合でも、要介護認定等を受けていたこと、家屋が一定の使用状況であったことなどの要件を満たせば、特例の対象となる可能性があります。
老人ホーム等に入所していた場合の対象要件は国税庁が別に示しています。入所時期、認定資料、家屋の利用状況、公共料金の記録など、後から集めにくい資料もあるため、早い段階で確認しておきましょう。
保有・活用・売却を中立的に比較する
空き家だから必ず売るべきということではありません。家族の希望、資産状況、管理できる距離、建物状態、収益性、税負担を整理し、次の選択肢を比較します。
1.当面は空き家として保有する
将来の居住や建替えの予定が比較的具体的で、管理費を負担できる場合に検討できます。
保有期間、管理担当者、点検頻度、費用負担、再検討日を決めておくことが重要です。「家族の気持ちが整うまで」と期限を決めずに保有すると、管理の空白が生じやすくなります。
2.家族が居住する
相続人や親族が住むことで、建物の劣化や防犯上の不安を抑えられる場合があります。
ただし、無償使用か賃貸借か、固定資産税や修繕費を誰が負担するか、将来売却するときにどうするかを明確にします。共有名義の場合は、使用する人以外の共有者との合意も大切です。
3.改修して賃貸する
立地と需要が合えば、賃貸収入を得ながら保有できる可能性があります。
家賃総額だけでなく、空室、管理費、募集費、原状回復、固定資産税、保険、修繕、設備更新を差し引いた実質的な収益を確認します。改修費を何年で回収できるか、将来売却するときの価格や賃借人の存在が与える影響も検討します。
4.建物を解体して土地を保有・活用する
老朽建物の安全上の問題を解消できる一方、解体費がかかり、住宅用地特例が適用されなくなる可能性があります。駐車場等で活用しても、需要や運営費によって収益性は変わります。
解体契約の前に、再建築の可否、境界、埋設物、アスベスト、解体後の固定資産税、売却特例への影響を確認します。
5.現状または整備後に売却する
管理負担を終え、相続人間で現金を分けやすくなる選択肢です。ただし、売却を急ぐ必要がないケースもあります。
現状売却、家財整理後の売却、耐震改修後の売却、解体後の土地売却について、それぞれの売却価格ではなく、工事費、仲介手数料、測量費、譲渡所得税等を差し引いた手取り額と所要期間を比較します。
相続した空き家の実務チェックリスト
- 戸籍等で相続人を確定する
- 登記事項証明書、公図、測量図、固定資産税課税明細を確認する
- 遺産分割前の管理担当者と費用負担を決める
- 建物内外を点検し、写真と日付を記録する
- 火災保険会社へ空き家の状態と補償範囲を確認する
- 固定資産税、保険、管理、修繕等の年間費用を集計する
- 家財、仏壇、重要書類、境界資料等を整理する
- 相続登記または相続人申告登記の期限を確認する
- 居住、賃貸、保有、解体、売却の収支と負担を比較する
- 3,000万円特別控除の対象要件と期限を確認する
- 家族の合意内容と次回の見直し時期を文書に残す
まとめ|空き家のまま保有するなら管理計画と再検討日を決める
相続した実家をすぐに売却せず、空き家として保有すること自体が不適切なわけではありません。しかし、使用していない期間にも、建物と敷地の管理、税金、保険、修繕、近隣への配慮が必要です。
まず相続人と不動産の状況を整理し、管理担当者、年間費用、保有予定期間、再検討日を決めましょう。そのうえで、家族利用、賃貸、改善、解体、資産の組み換え、売却を数字と実務負担の両面から比較することが大切です。
船橋・津田沼相続相談センターでは、代表の高原が、特定行政書士として相続人や財産関係、遺産分割に必要な事項を整理し、必要に応じて税理士・司法書士等の専門家と連携して対応します。
また、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資顧問)としての専門知識と、不動産会社経営および相続・不動産コンサルティングの実務経験を生かして対応します。単に現在の市場価格を査定するだけでなく、CPM・CCIMの知識と分析手法を用いて、空き家の維持費、収益性、投資価値、キャッシュフロー、修繕・管理負担、将来性などを分析し、保有、家族利用、賃貸、改善、資産の組み換え、売却の各選択肢を総合的に比較します。
船橋市、習志野市、千葉市周辺で、相続した実家を空き家のまま保有するか、活用・売却するかお悩みの方は、建物の劣化や税制上の期限が進む前に、財産全体とご家族の希望を整理してみてはいかがでしょうか。
※本記事は一般的な制度と検討方法を説明するものです。固定資産税は物件所在地の市区町村、相続税・譲渡所得税の試算や申告は税理士・税務署、相続登記は司法書士・法務局、建物の耐震性や改修は建築士等、近隣との紛争や法的判断は弁護士へご確認ください。
参考資料
- 「空家法とは」国土交通省、https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/akiya-taisaku/articles/2024020105.html (確認日:2026年9月7日)
- 「空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報」国土交通省、https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000035.html (確認日:2026年9月7日)
- 「相続登記の申請義務化に関するQ&A」法務省、https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00565.html (確認日:2026年9月7日)
- 「No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3306.htm (確認日:2026年9月7日)
- 「No.3307 被相続人が老人ホーム等に入所していた場合の被相続人居住用家屋」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3307.htm (確認日:2026年9月7日)
