相続財産の多くが土地、賃貸物件、自宅などの不動産で、預貯金が少ない場合、「相続税をどうやって納めるか」が大きな課題になります。
不動産の評価額が高くても、納税に使える現金が自動的に用意されるわけではありません。売却を選ぶ場合も、相続人の合意、相続登記、境界や建物の確認、買主募集、契約、決済に時間がかかります。
一方、納税資金が心配だからといって、条件を整理しないまま不動産を安く売る必要もありません。必要な税額、各相続人の負担、利用できる現金、不動産ごとの手取りと売却期間を早い段階で整理することが重要です。
この記事では、相続税の納税資金が不足しそうなときに検討する方法と、不動産売却を進める場合の実務上の順番を解説します。
相続税の申告・納付期限は10か月
相続税の申告と納税は、原則として被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内です。例えば、1月6日に死亡した場合は、その年の11月6日が期限となります。期限が土曜日、日曜日、祝日等に当たるときは、その翌日が期限とみなされます。
相続税は、申告期限までに金銭で一括納付するのが原則です。遺産分割協議がまとまっていないことや、不動産が売れていないことだけで、期限が自動的に延びるわけではありません。
そのため、申告の要否を確認するだけでなく、次の3つを並行して進めます。
- 相続人と遺言書を確認する
- 財産・債務を調査し、相続税額を試算する
- 誰が、いつ、どの資金で納付するかを決める
特例や控除の適用、不動産評価、未分割申告の取扱いは個別性が高いため、税理士または税務署へ早めに確認してください。
まず「相続税総額」と「各人の納付額」を分ける
家族全体の相続税総額が分かっても、各相続人が実際にいくら納付するかは、取得する財産や税額控除等によって異なります。
例えば、長男が不動産を多く取得し、次男が預貯金を取得する遺産分割では、長男の取得財産は大きくても、納税に使える現金が少ないことがあります。
次の表を相続人ごとに作成すると、不足額が見えやすくなります。
- 取得予定の預貯金
- 死亡保険金・死亡退職金
- 取得予定の不動産、有価証券、その他財産
- 承継する債務・葬式費用の負担
- 相続税の概算額
- 生活のため残しておく資金
- 納税へ充てられる金額
- 納期限までの不足額
遺産分割では財産評価の公平性だけでなく、各相続人の納税可能性も確認します。
納税資金を確保する6つの方法

1.被相続人の預貯金を使う
預貯金は最も分かりやすい納税原資ですが、口座の解約・払戻しには戸籍、遺言書、遺産分割協議書、金融機関所定書類等が必要になります。
相続人間の協議が長引くと、納期限までに使えない可能性があります。金融機関ごとの必要書類と処理期間を早めに確認しましょう。
また、預貯金を全て納税へ回すと、葬儀、未払費用、不動産の維持管理、相続人の生活に必要な資金が不足することがあります。納税後に必要となる現金も残します。
2.死亡保険金を活用する
死亡保険金は受取人へ支払われるため、契約内容によっては納税資金を早く確保しやすい財産です。
被相続人が保険料を負担していた死亡保険金を相続人が受け取る場合、非課税限度額は「500万円×法定相続人の数」です。相続人以外が取得した死亡保険金には、この非課税の適用はありません。
保険契約者、被保険者、保険料負担者、受取人によって課税関係が変わるため、保険証券と支払履歴を確認し、税理士や保険会社へ照会してください。
生前対策として生命保険を検討する場合は、非課税枠だけで決めず、本人の生活資金、保険料負担、受取人間の公平性、遺留分等も考慮します。
3.相続人自身の資金や代償金を使う
不動産を取得する相続人が自己資金で納税する方法があります。また、一人が不動産を取得し、他の相続人へ代償金を支払う代償分割を行う場合は、代償金の支払能力と納税資金を併せて確認します。
自己資金を多く投入すると、住宅ローン、教育費、老後資金など相続人自身の家計に影響します。「払えるか」だけでなく、支払後の資金余力を確認しましょう。
代償分割の税務や遺産分割協議書の記載方法によっては、想定外の課税関係が生じる可能性があります。具体的な内容は税理士・弁護士等へ確認してください。
4.金融機関から借りる
相続人の収入や担保となる不動産の状況によっては、納税資金の借入れを検討できます。
ただし、借りられる金額だけで判断せず、金利、返済期間、事務手数料、担保設定費用、繰上返済条件、賃貸収益からの返済可能性を確認します。
不動産を近い将来売却して返済する計画であれば、売却価格が下がった場合や売却が遅れた場合も返済できるかを試算します。借入れが相続人間の公平性へ与える影響も整理します。
5.相続不動産を売却する
相続財産の中に利用予定のない土地、空き家、低収益物件などがある場合、売却代金を納税資金へ充てる方法があります。
重要なのは、査定額ではなく納期限までに確保できる手取り額です。次の費用等を差し引いて確認します。
- 仲介手数料
- 測量、境界確認、残置物撤去、解体等の費用
- 抵当権抹消や登記関係費用
- 借入金の返済額
- 譲渡所得税・住民税の見込み
- その他、売却条件を整えるための費用
国土交通省の不動産情報ライブラリでは、実際の取引価格や地価、防災・都市計画等の情報を確認できます。ただし、個別物件の価格は接道、境界、建物状態、賃貸借、権利関係等により変わるため、複数の資料と現地調査を基に判断します。
6.延納・物納を検討する
現金一括納付が難しい場合、相続税には延納と物納の制度があります。ただし、希望すれば自由に選べる制度ではなく、要件を満たし、申告期限までに申請して許可を受ける必要があります。
延納は分割払いだが要件と利子税がある
相続税の延納は、相続税額が10万円を超え、金銭で一括納付することが困難であるなどの要件を全て満たす場合に申請できます。
主な要件は次のとおりです。
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で納付することを困難とする事由があること
- 納付困難額の範囲内であること
- 原則として延納税額と利子税に相当する担保を提供すること
- 納期限までに申請書と必要書類を提出すること
延納税額が100万円以下で、かつ延納期間が3年以下の場合は、担保が不要とされています。延納期間や利子税の割合は、相続財産の内容等によって異なります。
延納は納税を免除する制度ではありません。毎年の返済原資が必要となるため、賃料収入、給与、将来の売却予定などから返済可能性を確認します。
物納は延納でも納付が難しい場合の制度
相続税の物納は、延納によっても金銭納付が困難であるなどの要件を全て満たす場合に、納付困難額を限度として申請できます。
物納に充てられる財産には順位があり、国内にある一定の相続財産でなければなりません。境界が不明確な土地、権利関係や管理処分に問題のある財産などは、物納に適さない、または整備が必要となる可能性があります。
「売れない土地なら物納すればよい」とは限りません。期限直前では資料整備が間に合わない可能性があるため、物納を選択肢に入れる場合は、早い段階で税務署・税理士へ相談します。
不動産売却は納期限から逆算する
不動産を売却するには、査定を取って広告を出すだけでは足りません。次の工程を確認します。
- 相続人と遺言書を確定する
- 売却対象不動産の登記・利用状況を調査する
- 遺産分割協議で取得者または売却方法を決める
- 相続登記を行う
- 測量、境界、残置物、賃貸借、建物状態を確認する
- 査定価格、想定手取り、売却期間を比較する
- 媒介契約・販売活動を進める
- 売買契約、引渡し、代金決済を行う
- 相続税を納付する
- 翌年の譲渡所得申告に備えて資料を保存する
相続登記は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内が原則ですが、納税資金のため売却する場合は、法定期限にかかわらず売却前に登記を整える必要があります。具体的な登記は司法書士または法務局へ確認してください。
遺産分割前に確認すべき不動産の違い
複数の不動産がある場合、評価額だけで配分すると納税資金が偏ることがあります。各物件について次の項目を並べます。
- 相続税評価額
- 現在の市場価格
- 売却までの想定期間
- 売却費用・税金・借入返済後の手取り
- 賃料収入と空室状況
- 固定資産税、管理費、修繕負担
- 境界、越境、接道、再建築等の課題
- 居住者・賃借人・共有者の有無
- 将来の保有意向
市場価格3,000万円の土地でも、測量や境界調整に時間がかかれば納期限に間に合わないことがあります。一方、低収益でも管理状態が良く、安定した賃料が得られる物件は、保有しながら別の資産で納税する選択肢もあります。
売りやすい財産を誰が取得するか、納税負担を誰が負うかまで考えて遺産分割を検討します。
売却価格を下げる前に条件を整える
納期限が近づくほど、相続人側の交渉余地が小さくなる可能性があります。早めに次の課題を確認しましょう。
- 相続人全員の売却方針が一致しているか
- 登記名義と住所・氏名が整っているか
- 境界標や測量図があるか
- 建物の未登記部分や増築がないか
- 残置物を誰が処分するか
- 賃借人との契約内容、敷金承継が分かるか
- 抵当権の抹消条件が確認できるか
- 契約不適合責任の範囲をどうするか
課題を整理したうえで、現況のまま売る場合と、測量・撤去・修繕等を行ってから売る場合の手取りと期間を比較します。
納税資金対策の実務スケジュール
相続開始から2か月程度まで
- 遺言書、相続人、主要財産・債務を確認する
- 預貯金、保険、死亡退職金を調査する
- 不動産の登記、利用状況、借入を確認する
- 税理士へ相続税申告の要否と概算を相談する
3~5か月程度まで
- 不動産評価と市場価格を確認する
- 各相続人の納税見込額を試算する
- 遺産分割の方向性を協議する
- 売却候補不動産の課題と期間を整理する
- 借入、延納、物納の必要性を検討する
6~8か月程度まで
- 遺産分割協議書を作成する
- 相続登記や金融機関手続を進める
- 必要に応じて不動産の販売活動を開始する
- 延納・物納を検討する場合は申請資料を準備する
申告期限まで
- 相続税申告書を提出する
- 金銭納付または許可申請を行う
- 納税後の生活資金・不動産管理資金を再確認する
案件によって必要期間は大きく異なります。このスケジュールは目安であり、相続人が多い、海外在住者がいる、境界や権利関係に課題がある場合は、より早い着手が必要です。
生前にできる納税資金対策
相続開始後に急いで不動産を売らなくて済むよう、生前に次の準備を検討できます。
- 財産目録と概算相続税を作成する
- 預貯金と不動産の割合を確認する
- 生命保険の契約者・被保険者・受取人を確認する
- 低収益、共有、境界未確定などの不動産を整理する
- 売却候補と保有候補を家族で共有する
- 遺言書で分け方と納税可能性を調整する
- 管理資料、取得費資料、測量図等を保存する
節税額だけを優先すると、本人の老後資金が不足したり、相続人の納税資金が減ったりすることがあります。税負担、生活資金、遺産分割、管理負担を一体で考えます。
まとめ|必要手取り額と期限を先に決める
相続税の納税資金が不足しそうな場合は、まず各相続人の納付額と使える現金を整理し、不足額を明確にします。そのうえで、預貯金、死亡保険金、自己資金、借入、不動産売却、延納・物納を比較します。
不動産を売却する場合は、査定額ではなく、税金・費用・借入返済後の手取りと、納期限までに決済できる可能性を確認することが重要です。保有価値のある不動産まで急いで売却しないよう、家族の希望、収益性、管理負担、将来性も併せて判断します。
船橋・津田沼相続相談センターでは、代表の高原が、特定行政書士として相続人や財産関係、遺産分割に必要な事項を整理し、必要に応じて税理士・司法書士等の専門家と連携して対応します。
また、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資顧問)としての専門知識と、不動産会社経営および相続・不動産コンサルティングの実務経験を生かして対応します。単に現在の市場価格を査定するだけでなく、CPM・CCIMの知識と分析手法を用いて、売却手取り、収益性、キャッシュフロー、修繕・管理負担、売却期間などを分析し、保有、改善、資産の組み換え、売却の各選択肢を総合的に比較します。
船橋市、習志野市、千葉市周辺で、相続税の納税資金や不動産売却の進め方にお悩みの方は、申告期限が迫る前に、財産全体と必要手取り額を整理してみてはいかがでしょうか。
※本記事は一般的な制度と検討方法を説明するものです。相続税・譲渡所得税、延納・物納の可否や申告は税理士・税務署、相続登記は司法書士・法務局、遺産分割・紛争その他の法律判断は弁護士、境界・表示登記は土地家屋調査士等へご確認ください。
参考資料
- 「No.4205 相続税の申告と納税」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4205.htm (確認日:2026年9月4日)
- 「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4114.htm (確認日:2026年9月4日)
- 「No.4211 相続税の延納」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4211.htm (確認日:2026年9月4日)
- 「No.4214 相続税の物納」国税庁、https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4214.htm (確認日:2026年9月4日)
- 「相続登記ガイドブック」法務省・法務局、https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001437202.pdf (確認日:2026年9月4日)
