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相続人に認知症の疑いがあるときの遺産分割|署名を急ぐ前に確認する手順 | 船橋相続相談センター

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相続人に認知症の疑いがあるときの遺産分割|署名を急ぐ前に確認する手順

2026年08月31日

カテゴリ:相続手続き

相続人の一人が高齢で、物忘れや認知症の症状がある場合、「家族なのだから説明して署名してもらえばよい」「実印を押せれば手続できる」と考えてしまうことがあります。

しかし、遺産分割協議は、誰がどの財産を取得するかを決める重要な法律行為です。本人が内容と結果を理解して意思を示せる状態かを確認せず、形式だけ整えて進めることはできません。

一方、認知症という診断名があるだけで、すべての契約や協議が直ちにできなくなるとも限りません。判断能力は症状や対象となる行為の難しさによって異なるため、個別に慎重な確認が必要です。

この記事では、相続人に判断能力の低下が疑われるときの確認事項と、成年後見制度、期限のある手続、不動産を含む遺産分割の進め方を整理します。

認知症の診断と遺産分割の可否は同じではない

遺産分割協議へ本人が参加するには、財産の内容、相続人の範囲、分け方とその結果を理解し、自分の意思を示せることが必要です。

物忘れがある、介護認定を受けている、認知症の診断を受けているという事実だけで、一律に協議能力の有無を判断することは適切ではありません。反対に、日常会話ができる、署名や押印ができるというだけで十分ともいえません。

本人の理解状況に不安がある場合は、家族だけで結論を出さず、主治医の診断や専門家の助言を得ながら確認します。後日、協議の有効性をめぐる争いが生じる可能性がある場合は、弁護士への相談が必要です。

家族が本人に代わって署名することはできない

配偶者や子であっても、当然に本人の代理人になれるわけではありません。本人の実印や印鑑証明書を預かっている場合でも、本人の意思確認を省略して遺産分割協議書へ押印することは避けなければなりません。

また、本人の財産を守る立場と、他の相続人として財産を取得する立場が重なると、利害が対立することがあります。

まずは次の事項を整理します。

  • 本人が相続の発生を理解しているか
  • 相続人と財産の概略を理解できるか
  • 提案された分け方と自分の取得内容を理解できるか
  • 自分の希望を一貫して説明できるか
  • 既に成年後見人、保佐人、補助人が選任されていないか
  • 任意後見契約や家族信託等が存在しないか

判断能力が不十分な場合の成年後見制度

成年後見制度には、本人の判断能力の程度に応じた後見・保佐・補助があり、家庭裁判所が成年後見人等を選任します

裁判所の案内では、判断能力が欠けているのが通常の状態であれば後見、著しく不十分であれば保佐、不十分であれば補助という区分が示されています。実際の類型は医師の診断書、本人の状況、家庭裁判所の審理等を踏まえて決まります。

成年後見人が本人を代理する場合

後見開始の審判を受けると、成年後見人が本人の財産に関する法律行為を代理します。遺産分割でも、本人の利益を守る立場から内容を検討します。

成年後見人は、家族の希望を実現するためだけの代理人ではありません。本人の財産と生活を継続的に守る職務を負い、家庭裁判所の監督を受けます。

保佐・補助では代理権の範囲を確認する

保佐人や補助人が選任されていても、当然に遺産分割を代理できるとは限りません。遺産分割について代理権が付与されているか、同意権の範囲はどうなっているかを審判書や登記事項証明書で確認します。

成年後見登記制度では、成年後見人等の権限や任意後見契約の内容が登記され、登記事項証明書により証明されます。必要書類と請求できる人の範囲を確認して取得します。

後見人も相続人なら利益相反に注意する

例えば、認知症の母と長男が共同相続人で、長男が母の成年後見人になっている場合、同じ遺産を分ける場面で両者の利益が対立します。

本人と成年後見人等が共同相続人として遺産分割を行うなど利益相反となる場合、原則として家庭裁判所が選任した特別代理人等が本人を代理します。後見監督人等が選任されている場合は取扱いが異なることがあります。

「家族全員が納得している」「本人の生活費は他の相続人が負担する」という事情だけで、利益相反の手続を省略できるわけではありません。協議案を作る前に、家庭裁判所や弁護士、司法書士等へ確認してください。

成年後見は遺産分割だけで終わる制度ではない

成年後見制度を「遺産分割協議書へ署名するためだけの制度」と考えるのは適切ではありません。

一度後見等が開始すると、原則として本人の判断能力が回復して審判が取り消されるか、本人が亡くなるまで続きます。後見人等は本人の預貯金、不動産、収支を管理し、家庭裁判所へ定期的に報告する必要があります。専門職が選任された場合などは、本人の財産から報酬が支払われることがあります。

申立人が希望した親族が必ず後見人に選ばれるとは限りません。制度の継続期間、管理方法、費用、家族への影響を理解したうえで申立てを検討します。

本人の相続分を軽く扱わない

成年後見人等は本人の利益を守るために行動します。そのため、「不動産は長男にすべて取得させ、認知症の母は何も取得しない」といった分割案が、そのまま認められるとは限りません。

本人の法定相続分を確保することが基本的な検討になりますが、本人の生活、介護、扶養、財産状況、遺言の有無などにより個別事情があります。具体的な分割案は、後見人等、家庭裁判所、弁護士等と調整します。

本人が取得する財産についても、現金で管理しやすくするのか、収益不動産を取得するのか、共有持分を取得するのかによって、その後の管理負担が変わります。

相続税の10か月期限は協議中でも延びない

成年後見の申立てや遺産分割に時間がかかっても、相続税の期限が自動的に延びるわけではありません。

相続税の申告と納税は原則として相続開始を知った日の翌日から10か月以内で、遺産が未分割でも期限までに申告・納税が必要です

未分割の場合は、原則として民法上の相続分等に従って取得したものとして計算します。その段階では、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できない場合があります。

一定の手続を行い、期限後に分割が成立した場合には特例適用や更正の請求ができる可能性がありますが、期限と要件があります。成年後見手続と並行して、早い段階で税理士へ相続税申告の要否と納税資金を確認してください。

相続登記の期限にも対応する

相続登記は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内の申請が原則として義務化されています。遺産分割が成立した場合にも、その成立日から3年以内に内容を反映した登記が必要です。

成年後見人等が決まらず遺産分割が進まない場合でも、登記義務を放置しないよう司法書士・法務局へ相談します。相続人申告登記は、遺産分割がまとまらないときに基本的な申請義務を履行するための制度ですが、最終的な取得者を確定する登記ではありません。

相続税、相続登記、預貯金、不動産管理を別々に考えず、期限表を作って同時に進めることが重要です。

相続不動産の売却・賃貸はさらに慎重に確認する

遺産に自宅、空き家、賃貸物件がある場合、分割後の管理や処分も考える必要があります。

成年被後見人が取得した不動産を売却する場合、本人の利益にかなう理由と適正な価格が求められます。本人の居住用不動産の処分では、家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。施設入所中であっても、将来戻る可能性のある自宅が居住用不動産に含まれることがあります。

売却を前提にせず、次の事項を整理します。

  • 本人が住み続ける可能性と介護方針
  • 固定資産税、保険、修繕、防犯等の管理負担
  • 賃貸した場合の収益性と管理体制
  • 売却した場合の市場価格、費用、税引後手取り
  • 売却代金を本人のために安全に管理する方法
  • 共有取得した場合の意思決定と将来の相続

不動産会社の査定だけでなく、本人の生活設計、収益性、将来支出まで含めて比較します。

実務的な進め方

  1. 遺言書と法定相続人を確認する
  2. 預貯金、不動産、負債等の財産目録を作る
  3. 本人の理解・意思表示の状況を慎重に確認する
  4. 既存の成年後見、保佐、補助、任意後見等の有無を確認する
  5. 必要に応じて医師、家庭裁判所、弁護士等へ相談する
  6. 後見等の申立てが必要か、代理権の範囲を確認する
  7. 利益相反があれば特別代理人等の手続を確認する
  8. 相続税申告と納税資金を税理士へ確認する
  9. 相続登記への対応を司法書士・法務局へ確認する
  10. 不動産の市場価格、収益、管理負担、売却手取りを比較する
  11. 本人の利益を踏まえた遺産分割案を検討する
  12. 協議成立後、名義変更と財産管理を進める

生前にできる準備

本人に十分な判断能力があるうちであれば、遺言書、任意後見契約、財産管理の委任、家族信託等を検討できる場合があります。

ただし、制度によって権限、開始時期、監督、費用、税務、不動産処分の方法が異なります。「認知症対策」という名称だけで選ばず、財産の内容、家族関係、本人の希望に合うかを確認してください。

特に複数の不動産や賃貸物件がある場合は、誰が管理を担うのか、修繕・借入・売却を誰が判断するのか、相続後に共有を残さないかまで決めておくことが大切です。

まとめ|本人の意思と利益を中心に期限管理を進める

相続人に認知症の疑いがある場合、遺産分割協議書への署名・押印を急ぐのではなく、本人が内容を理解し意思を示せるかを慎重に確認する必要があります。

判断能力が不十分な場合には成年後見制度等を検討し、利益相反、相続税の10か月期限、相続登記の義務、不動産の管理・処分を並行して整理します。

船橋・津田沼相続相談センターでは、代表の高原が、特定行政書士として相続人や財産関係、遺産分割に必要な事項を整理し、必要に応じて税理士・司法書士等の専門家と連携して対応します。

また、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資顧問)としての専門知識と、不動産会社経営および相続・不動産コンサルティングの実務経験を生かして対応します。単に現在の市場価格を査定するだけでなく、CPM・CCIMの知識と分析手法を用いて、本人の生活に必要な資金、不動産の収益性、キャッシュフロー、修繕・管理負担、将来性などを分析し、保有、活用、資産の組み換え、売却の各選択肢を総合的に比較します。

船橋市、習志野市、千葉市周辺で、相続人の判断能力や成年後見、不動産を含む遺産分割の進め方にお悩みの方は、書類への署名を求める前に、手続全体と期限を整理してみてはいかがでしょうか。

※本記事は一般的な制度と手続を説明するものです。意思能力、利益相反、成年後見、紛争等の法律判断は弁護士・家庭裁判所、相続税は税理士・税務署、相続登記は司法書士・法務局、表示登記・境界は土地家屋調査士等へご確認ください。

参考資料