親からアパートや賃貸マンションを相続すると、「毎月家賃が入るので、持っていた方がよい」と考えやすいものです。
しかし、通帳に入る家賃だけでは、その物件が本当に利益を生んでいるかは分かりません。固定資産税、管理料、保険料、空室期間の負担、原状回復費、大規模修繕、借入金の返済などを差し引くと、実際の手残りが少ないこともあります。
反対に、現時点の収支が低くても、管理方法や募集条件、修繕の時期を見直すことで改善できる物件もあります。
相続した賃貸不動産は、すぐに売却するか、そのまま保有するかを決めるのではなく、まず収益性と将来の負担を見える化することが大切です。
「家賃収入」「税務上の所得」「実際の手残り」は異なります
国税庁の案内では、不動産所得は、賃貸料などの総収入金額から必要経費を差し引いて計算します。主な必要経費には、固定資産税、損害保険料、減価償却費、修繕費などがあります。
ただし、税務上の不動産所得と、手元資金の増減は同じではありません。
例えば、減価償却費は税務上の必要経費になりますが、その年に同額の現金を支出するわけではありません。一方、借入金の元本返済は現金が出ていきますが、通常はそのまま必要経費になるものではありません。
そのため、賃貸物件を診断するときは、少なくとも次の三つを分けて確認します。
- 年間の家賃等収入
- 税務上の不動産所得
- 借入返済や将来修繕を考慮した実際の手残り
税務上の取扱いは契約内容や支出の性質によって異なるため、具体的な計算は税理士へ確認してください。
最初に集めたい資料
収益診断は、感覚ではなく資料を並べるところから始めます。
- 過去2~3年分の家賃入金明細
- 入居者ごとの賃料、共益費、契約期間が分かる一覧
- 空室期間と募集条件
- 管理委託契約書、賃貸借契約書
- 固定資産税納税通知書
- 火災保険・地震保険の内容
- 修繕履歴と工事見積書
- 借入金の返済予定表
- 管理費・修繕積立金の明細
- 建物図面、登記事項証明書、建築確認関係書類
親が自主管理していた物件では、契約書と実際の入金額が一致しない、更新や敷金の記録が不十分、修繕履歴が残っていないといったこともあります。
相続後のトラブルを防ぐためにも、収益診断と契約・管理資料の整理を同時に進めることが重要です。
年間収支は「現在」と「将来」に分けて確認する
現在の収支では、次の項目を年間単位で整理します。
収入
- 家賃
- 共益費
- 駐車場収入
- 更新料など
支出
- 管理委託料
- 共用部の電気・水道・清掃費
- 固定資産税・都市計画税
- 損害保険料
- 原状回復費、設備交換費
- 管理費・修繕積立金
- 借入金の元本・利息
- 税務・法務・管理にかかる費用
さらに、現在は発生していなくても、外壁、屋根、防水、給排水設備、給湯器、エアコンなどの将来修繕を見込む必要があります。
国土交通省も、民間賃貸住宅について、計画修繕の必要性、投資効果、定期点検の重要性を案内しています。
大きな工事が必要になる年だけ収支が急激に悪化しないよう、建物の状態を確認し、将来費用を年単位で見積もっておきましょう。
修繕費は税務上の扱いにも注意
修繕に支払った金額が、すべて支出した年の必要経費になるとは限りません。
国税庁の案内では、通常の維持管理や原状回復のための支出は修繕費となる一方、使用可能期間を延ばしたり、資産価値を高めたりする部分は資本的支出として、減価償却の対象になる場合があります。名称ではなく、工事の実質によって判断されます。
また、賃貸用区分マンションの修繕積立金は、原則と例外の取扱いがあります。管理規約や長期修繕計画など、国税庁が示す一定の要件を満たすかによって判断が変わり得ます。
大規模修繕やリノベーションを検討するときは、工事後の賃料や入居率だけでなく、税務処理、工事期間中の空室、資金繰りまで含めて税理士等へ確認することが大切です。
相続した賃貸物件を評価する7つの視点
1.空室を考慮した実質的な収入
満室時の年間家賃ではなく、実際の入金額を基準にします。一時的な空室なのか、賃料設定、間取り、設備、管理状態などに原因があるのかも確認します。
2.修繕後に収益が改善するか
修繕費をかければ必ず収益が上がるわけではありません。工事費、改善が見込める賃料、空室期間の短縮効果、投資回収までの期間を比較します。
3.借入返済後に現金が残るか
帳簿上は利益があっても、元本返済を含めると手元資金が不足する場合があります。金利、残存期間、今後の返済額も確認します。
4.建物と設備の将来負担
築年数だけで判断せず、屋根、外壁、防水、配管、消防設備などの状態と修繕履歴を確認します。先送りされた工事は、次の世代へまとまった負担として残ります。
5.相続人が管理を続けられるか
収益性があっても、入居者対応、工事判断、管理会社との調整、確定申告を負担に感じる方もいます。後継者の居住地、年齢、経験、意向も重要な判断材料です。
6.現在の市場価格と資産全体の偏り
相続税評価額と市場での売却見込額は同じではありません。賃貸不動産に資産が偏り、納税資金や遺留分に対応する現金が不足していないかも確認します。
7.家族の希望と分割方法
一棟の収益物件を複数人で共有すると、修繕、借入、賃料変更、売却などの意思決定が複雑になりやすくなります。
誰が経営を担い、ほかの相続人へ何を分けるかを、生前から検討しておくことが望まれます。
保有・改善・組み換え・売却を比較する
| 選択肢 | 適している可能性がある状況 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 現状のまま保有 | 収支が安定し、修繕計画と管理体制が整っている | 将来工事と後継者の管理負担 |
| 修繕・運営改善 | 立地需要があり、設備や募集方法の改善余地がある | 投資額、回収期間、税務処理 |
| 資産を組み換える | 管理負担や収益性に課題があり、資産の偏りを見直したい | 売却・取得の費用と税負担、新しい投資リスク |
| 売却して現金化 | 納税・分割資金が必要、後継者がいない、将来負担が大きい | 売却時期、市場価格、譲渡所得税、入居者との契約関係 |
売却は選択肢の一つですが、結論を急ぐ必要はありません。
収益改善の可能性がある物件まで手放せば、将来の安定収入を失うことになります。一方、親が長年保有していたという理由だけで、低収益の物件をそのまま引き継ぐことも適切とは限りません。
数字、建物、家族の三つの面から比較することが大切です。
生前の財産診断なら選択肢を残しやすい
相続発生後に初めて収益を調べると、相続税の申告期限や遺産分割の話し合いがある中で、短期間に判断を迫られることがあります。
生前であれば、修繕による改善効果を確かめる、管理を子へ引き継いでみる、借入を整理する、納税資金を準備するなど、時間をかけて試すことができます。
財産診断では、賃貸物件を相続税評価額だけで見るのではなく、現在の市場価格、実際の収支、将来修繕、管理負担、相続人の希望を一つの表にまとめると、対策の優先順位が見えやすくなります。

まとめ|賃貸物件は「評価額」と「手残り」の両方を確認
相続した賃貸物件を判断するときは、家賃収入だけでなく、空室、運営費、借入返済、将来修繕を含めた実際の手残りを確認しましょう。
検討の順番は次のとおりです。
- 契約書、入金、経費、借入、修繕履歴を集める
- 現在の年間収支と実際の手残りを計算する
- 建物診断と将来修繕費の見込みを確認する
- 市場価格、相続税評価、管理負担を整理する
- 家族の希望を確認する
- 保有・改善・組み換え・売却を比較する
船橋・津田沼相続相談センターでは、代表の高原が、特定行政書士として相続人や財産関係、遺産分割に必要な事項を整理し、必要に応じて税理士・司法書士等の専門家と連携して対応します。
また、宅地建物取引士、公認不動産コンサルティングマスター、CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資顧問)としての専門知識と、不動産会社経営および相続・不動産コンサルティングの実務経験を生かして対応します。単に現在の市場価格を査定するだけでなく、CPM・CCIMの知識と分析手法を用いて、収益性、投資価値、キャッシュフロー、修繕・管理負担、将来性などを分析し、保有、改善、資産の組み換え、売却の各選択肢を総合的に比較します。
船橋市、習志野市、千葉市周辺で、相続したアパートや賃貸マンションの将来にお悩みの方は、まず資料をそろえ、収益と管理負担の棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。
※本記事は一般的な制度と検討方法を説明するものです。所得税・相続税・譲渡所得税などの税務判断は税理士・税務署、不動産登記は司法書士・法務局、賃貸借や遺産分割等の法律問題・紛争は弁護士へご確認ください。
参考資料
- No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)|国税庁(確認日:2026年8月19日)
- No.1379 修繕費とならないものの判定|国税庁(確認日:2026年8月19日)
- 賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い|国税庁(確認日:2026年8月19日)
- 民間賃貸住宅|国土交通省(確認日:2026年8月19日)
- 賃貸住宅の計画修繕推進セミナー|国土交通省(確認日:2026年8月19日)
